起業工学とは~起業工学20年の歩み~
1.起業工学研究会の設立
- 2010年版「映像情報メデイア工学大辞典」総説
- 第12部門編 第1章第1節
- 高知工科大学名誉教授 加納剛太
筆者らが「起業工学」という概念を1999年から提唱し、教育並びに研究の実践を開始して本年で10周年を迎える。(参考文献(1)、(2))緒についたばかりとはいえ、新しい学問領域として認知され、この大辞典の一偏をかざることができるに至ったことは関係者一同の望外の喜びとするところである。
「起業工学」の概念と実践の先鞭をつけられた先達、末松安晴先生(元東京工業大学学長)、水野博之先生(元松下電器産業株式会社副社長)に先ずもって謝意を表すとともに、共に歴史を歩み更なる未来に向けて努力を惜しまない多くの朋友、本編の著者各位に深甚なる敬意を表したい。「起業工学」発想の原点は、21世紀を迎えるにあったて、知識経済へと世界の経済がパラダイム変革しようとする中で、科学技術のあり方を考え直さなければならないというところにあった。
技術革新を基とする技術発展の波動はそれが及ぼす経済発展の波動と同期するという歴史の事実について研究することは経済学の一つの大きなテーマとして、古くから議論がなされてきた。また、この技術革新がもたらす技術発展と経済発展の波動の間に同期性をもたらす基本的な要因はイノベーションと呼ばれ、経営学では最も注目される一つとして古くから研究がなされてきている。この言葉は当初、技術革新そのものとして翻訳、解釈されてきたが、20世紀後半のIT革命時代には、シュンペータが最初に提唱した“新結合による新しい価値の創造”と解釈することが妥当なものとされるようになった。本編でいう「起業工学」とは、このインベーションの原点を事例から深く学び、普遍的な要因を論じることと定義することも出来る。また、イノベーションを結果として現実に至らしめる要因は“アントレプレナーシップ”とよばれ、“個の創造性、個の行動力”を中心とする精神的要因に帰するところが大きい。
「起業工学」は“アントレプレナーシップ”を論理的、体系的に議論することを目的とした自然科学と社会科学の融合学問領域、すなはち、工学、経営学、経済学、中心とした融合学問領域の中で捉えることができる。 わかりやすく言えば「起業工学」の意図する研究と実践の学問は、アントレプレナーシップをベースにしたインベーションから新しい経済価値を創造することを、工学に軸足を置き、経営学、経済学、社会学等の融合的な視点から、議論することであると定義したい。
ドラッカーが指摘する21世紀の知識経済社会こそはこの「起業工学」の実践を求める社会であると言っても過言ではない。「知」とは、単に、「形式知」としての「特許」あるいは「論文」を指すのではなく、それを活かして「MAKE MONEY」の仕組みを作ろうとする価値の創造の実践に必要な「暗黙知」を含むものであり、「起業工学」実践の基盤として位置づけられるものである。加えて、この「知」はイノベーションを実践するに当たっての「リスク」の認識、とそれを乗り越えるためのメンタルな要素「挑戦」、という行動力を含むものである。
「知」が、結果として利益を創出し、正の循環を通じて社会発展に貢献していくためには、「敢えてリスクを取る」ことが必要であり、「不確実性」を克服していく「異常なまでの執念」が必要であるという実際を学び取ることもこの「起業工学」という新しい学問の意義としていただきたい。
本編の編集にあったては、「起業工学」に携わる多くの有識者、およびそれにつながるアカデミア、産業界の叡智と実践の結果を結集し、1年を越える歳月が重ねられた。未来に向けて本編から多くを学ばれることを期待したい。
参考文献
- (1) 2000年12月、「マルチメデイア・アントレプレナー・エンジニエリング時限研究会設立趣意書」
- (2) 2004年3月、高知工科大学紀要 Vol.1,No.1, P.22-29「大学院起業化コースにおける教育と研究」
(その他参考資料)
(起業工学に関する記事が掲載された新聞)
2.起業工学研究会の運営と活動
「アントレプレナー・エンジニアリング研究会15 年の歩み」はコチラ
3.公開講座・公開シンポジューム
公開年 | タイトル/主催/講演者 | パンフレット |
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H.29 |
「京都発イノベーション 創業から東証一部上場まで」
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H.28 |
「京アロマカンファレンス」
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H.28 |
起業工学 国際シンポジューム「京都からのイノベーション・伝統から未来へ」
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H.27 |
「世界を知る」
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H.25 |
映像情報メディア学会アントレプレナーエンジニアリング研究会設立15周年記念国際シンポジューム 「京都からのイノベーション:京都の起業文化と国際化について」
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H.23 |
「日米起業家セミナー:起業成功への道」
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H.23 |
「日米起業家セミナー:シリコンバレーからのメッセージ」
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H.23 |
「日米起業家セミナー:起業家とは何か」
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H.23 |
「日米起業家セミナー:起業における大学の役割」
|
|
H.23 |
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4.「起業工学」に関する出版図書
起業工学~新規事業を生み出す経営力~
表紙 | |
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監修 | 福田國弥(大阪電気通信大学理事長、京都大学名誉教授) |
水野博之(元松下電器産業株式会社副社長、大阪電機通信大学副理事長) | |
編著 | 加納剛太(元松下電子工業株式会社常務、大阪電気通信大学客員教授) |
著者 | Richard Dasher(スタンフォード大学教授) |
古池 進(元パナソニック株式会社副社長) | |
James Harris(スタンフォード大学教授) | |
杉山一彦(元パナソニック株式会社副社長) | |
河崎達夫(元松下電子工業専務) | |
成瀬 淳(大阪電気通信大学監事、元株式会社日立グローバルストレージテクノロジーズ社長) | |
桑野幸徳(元三洋電機株式会社社長、大阪電気通信大学理事) | |
松波弘之(京都大学名誉教授) | |
Carlos Araujo(コロラド大学コロラドスプリングス校教授、シンメトリックス社社長) | |
中村修二(カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授) | |
Larry Weber(元松下電器産業プラズマコ社社長) | |
出版社 | 冨山房インターナショナル |
amazon ページ |
起業工学―新規事業を生み出す経営力 |
日本復活の鍵~起業工学~
表紙 | |
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監修 | 加納剛太(元松下電子工業常務、高知工科大学名誉教授) |
著者 | 古池進(元パナソニック㈱副社長) |
西本清一(京都大学名誉教授、独立行政法人京都市産業技術研究所理事長、財団法人京都高度技術研究所理事長) | |
カルロス・アラウジョ(コロラド大学コロラドスプリングス校教授・シンメトリックス社会長) | |
中村修二(カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授) | |
河田 聡(大阪大学特別教授) | |
吉本昌弘(京都工芸繊維大学教授・副学長) | |
出版社 | 冨山房インターナショナル |
amazon ページ |
日本復活の鍵 起業工学 |
松下流起業家精神
表紙 |
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著者 | Bob Johnstone |
翻訳 | 伊浦 志津 |
出版社 | 東洋経済新報社 |
amazon ページ |
松下流起業家精神―日本のものづくりはこうして甦る |
ディープ・イノベーション: ─起業工学が開く人類の新たな地平─
表紙 |
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編著 | 加納剛太(高知工科大学名誉教授) |
著者 | Carlos Araujo(コロラド大学教授/シンメトリックス社会長・CEO) |
古池進(元パナソニック代表取締役副社長) | |
椎橋章夫(JR東日本メカトロニクス株式会社代表取締役社長) | |
出版社 | 冨山房インターナショナル |
amazon ページ |
ディープ・イノベーション: ─起業工学が開く人類の新たな地平─ |
エレクトロニクス産業の興亡〜伝統から未来へ〜 価値創造への挑戦:加納剛太の歩んだ道
表紙 |
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編著 | 加納剛太(高知工科大学名誉教授) |
監修 | 濱口智尋(大阪大学名誉教授) |
著者 | 安井美佐子 |
協力 | 一般社団法人 映像情報メディア学会 |
出版社 | 22世紀アート |
amazon ページ |
エレクトロニクス産業の興亡〜伝統から未来へ〜 価値創造への挑戦:加納剛太の歩んだ道 |